精神保健福祉士とは?仕事内容・就職先・社会福祉士との違い
福祉に関わる業務は、心身に障害を抱える人とその家族をサポートするうえで欠かせない重要な仕事です。福祉や介護の仕事にやりがいを感じて転職を考えている人もいるでしょう。介護・福祉系の一つに精神保健福祉士という資格があります。この記事では、精神保健福祉士とは具体的にどのような仕事をするのか、資格の取得方法や主な就職先などについて解説していきます。
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精神保健福祉士とは?
精神保健福祉士は、精神的な障害のある人を対象に社会面、生活面での支援を行うのが主な仕事です。福祉関係にたずさわる仕事の中で、介護をはじめとした支援を行える資格にはさまざまなものがあります。皆、立場や持ち場は違いますが、それぞれが得意分野を活かしながら福祉制度を必要とする人を支え、できるだけ自立した暮らしができるようにサポートしていくことを使命としています。その中で、精神保健福祉士とは精神障害者に特化して支援を行うことができる資格という位置づけです。
仕事内容(具体的な支援内容と役割)
では、具体的にはどのような役割があるのかをあげてみましょう。
まず密接にかかわるのが医療費と生活費の問題です。障害者自身はもちろんですが、家族にとっても医療機関にかかる費用は大きな負担になります。また、障害を抱えた人が世帯主であった場合には、生活費の捻出も問題になり得ます。
精神障害といってもその病状はさまざまです。厚生労働省が代表例としてあげている精神障害を見ていくと、統合失調症やてんかん、依存症、気分障害、高次脳機能障害などがあります。いずれも症状の悪化が見られたときには仕事を続けることが困難になりやすく、休養をとりながら治療に当たることがほとんどです。中には、交通事故など不慮の事故から精神障害者となってしまうケースも少なくはありません。
そのような状況に陥ってしまった方の医療費や生活費として活用できる公的支援制度を斡旋するのも、精神保健福祉士の仕事の一つです。そのほか、できる限り社会に復帰してもらい、本来の自立した生活ができるようにサポートするという重要な役割もあります。社会復帰に向けて、日常生活に必要な訓練や会話の練習など直接障害者と向き合うことも欠かせない仕事です。さらに、再び社会に出て働くための支援や、就職を果たした後も仕事に定着できるまでのサポートなども行います。
精神保健福祉士がこのように多岐にわたる仕事を担うことになった背景には、2006年に施行された「障害者自立支援法」と2012年に施行された「障害者総合支援法」があります。この2つの法律がきっかけで、それまで精神障害者が置かれていた入院医療中心の生活から地域での生活へと変化しました。しかし、そのためには専門知識を有する支援者がいなければなりません。そこで、精神保健福祉士が、障害者と社会がつながりを持てるように導く役割を強めることになったのです。
精神保健福祉士と社会福祉士の違いとは
| 項目 | 精神保健福祉士 | 社会福祉士 |
|---|---|---|
| 対象者 | 精神的な障害を持つ人とその家族 | 生活に困難を抱えるすべての人(高齢者、障害者、子どもなど) |
| 主な業務 | 精神科での相談援助、公的支援制度の利用支援、社会復帰支援 | 福祉全般の相談援助、制度の紹介・手続き支援 |
| 職場 | 精神科病院、保健所、就労支援機関、行政機関など | 福祉事務所、病院、介護施設、児童相談所、学校、企業など |
| 資格の特徴 | 精神的な障害を抱える人の支援に特化した専門資格 | 幅広い分野に対応する福祉の総合的資格 |
| 両資格の併用 | 両方の資格を取得することで、より広い支援と専門性のある対応が可能になる | |
社会福祉士とは
社会福祉士とは国家資格の一つで、心身に障害を抱えるなどさまざまな事情から通常の生活を送ることが困難な人を支援するのが主な仕事です。社会福祉士が支援をするのは、障害を抱えて社会参加や自宅での生活が難しい人だけではありません。突発的な災害や失業といった何らかの働けない事情を抱えて生活が困難になった人の支援も社会福祉士の仕事に含まれます。その他、不登校や虐待など子育てに関する問題にも相談窓口となって対応することもあります。社会福祉士は、社会の中で何らかの支援を必要としている人やその家族の相談を受け、状況に見合った適切な制度の紹介や申請を行い、自立できる暮らしに戻していくための支援をする人と考えればいいでしょう。
精神保健福祉士が支援するのは精神に障害を抱えた人で、対象となる人が限定されているという点が違います。それだけ専門性が高いということでもありますが、両方の資格を取得して仕事に活かすという考え方もできます。例えば、社会福祉士の資格があれば、通常の暮らしが営めないことで困っている人全般の相談に乗り、サポートすることが可能です。さらに精神保健福祉士の資格まで取得しておけば、精神面に障害を抱えている人に特化して支援を行うことも可能になります。
介護福祉士とは
介護福祉士も国家資格の一つです。障害によって通常の社会生活を送ることが困難な人を介護し、その家族など周囲の人に適切な介護指導を行うという点では精神保健福祉士に似ています。ただし、介護福祉士の場合は精神面だけでなく身体面の障害を抱えた人も対象となっており、この点がもっとも違う点です。社会福祉士の場合は直接介護を行うことはほぼありませんが、介護福祉士は障害者の介護が主な仕事にあげられます。直接的なサポートを行うという点では、障害者の訓練などにたずさわる精神保健福祉士と共通しているかもしれません。
精神保健福祉士の職場・就職先一覧
就職先の例
- 精神科病院・心療内科クリニック
- 地域活動支援センター
- 就労移行支援事業所・就労継続支援事業所
- 相談支援事業所
- 保健所・市区町村の福祉窓口
- 児童相談所(児童福祉司を兼務)
- 高齢者向け介護施設(認知症ケアなど)
- ハローワーク(職業相談支援)
- 学校や教育機関(スクールソーシャルワーカー)
- 一般企業(産業メンタルヘルス支援)
現代では活躍の場が拡大され、さまざまな場所で働くことが可能になっています。まずあげられるのは、心療内科や精神科のあるクリニックです。高齢者向けの介護施設なども精神保健福祉士の就職先として増えています。
障害者の社会復帰を支援するという視点での就職先でいえば、ハローワークや就労支援事業所などです。就労の機会を提供する機関で、障害者の仕事についての不安や問題点などを考慮しながら相談に応じる他、実際に仕事の紹介などを行います。また、相談支援事業所や保健所などに勤務し、障害者が地域生活に復帰するための具体的な調整に当たるのも精神保健福祉士の重要な仕事です。他にも、児童相談所や一般の企業など、精神保健福祉士が活躍できる場は増えています。児童相談所では、精神保健福祉士も児童福祉司の資格を満たすものとされているので、児童の福祉相談という仕事を通して支援ができます。
一般の企業では、労働者の心のケアを担う専門家として就職するケースが多いでしょう。現代社会では、大きなストレスを抱えながら働き続ける労働者は珍しいことではありません。疲労や仕事に対する責任感の強さから精神が疲弊してしまう人もいます。そのような労働者に向けて適切なケアを行うことで、精神障害の予防につなげることもできるのです。精神障害は外見にはわからないことが多いですが、本人や家族にとっては辛い症状を抱えている場合があります。障害者自身ではなかなか難しい社会復帰や生活支援などに手を差し伸べ、本来あるべき暮らしに戻していくということはかけがえのない重要な仕事です。ここで紹介した以外にも、精神保健福祉士が活躍できる場は今後さらに拡大されていくことが期待できるでしょう。
精神保健福祉士の試験と登録の流れ
精神保健福祉士の資格を取得するために必要な受験資格は4つあります。その4つの中のいずれかの条件を満たしていなければ精神保健福祉士国家試験の受験はできません。まず、1つめは4年制の大学で指定科目を修了している者です。そして、2つめは2年制または3年制の短期大学において指定科目を修了していることで、さらに指定された施設で相談援助の実務経験が必要になります。実務経験は2年または1年以上が対象です。3つめの条件は精神保健福祉士短期養成施設を修了した者で、4つめには精神保健福祉士一般養成施設を修了していることがあげられます。
保健福祉系大学等ルート(4年制大学等)
4年制の保健福祉系大学・大学院・4年制の専門学校などで指定科目を履修・卒業した時点で受験資格を得られます。
保健福祉系短大学等ルート(福祉系短大等+相談援助実務)
3年制の保健福祉短期大学などで指定科目を履修・卒業した場合は、3年制であれば1年間、2年制であれば2年間、相談援助実務経験を積めば、受験資格を得られます。
短期養成施設等ルート
福祉系大学で基礎科目のみ履修・卒業した場合は、短期養成施設などで6ヶ月以上学べば受験資格を得られます。また、福祉系短大等で基礎科目のみを履修・卒業した人が受験資格を得るには、3年制であれば1年間、2年制であれば2年間、相談援助実務経験を積み、さらに短期養成施設などで6ヶ月以上学ばなければいけません。
一般養成施設等ルート
一般の4年制大学を卒業してから一般養成施設等で1年以上学ぶと、受験資格を得られます。一般短大を卒業した場合、3年制であれば1年間、2年制であれば2年間にわたり相談援助実務を経験後、精神保健福祉士一般養成施設等で1年以上学ぶと受験資格を得られます。
また、大学・短大等を卒業していない人は、相談援助実務を4年間経験していれば、精神保健福祉士一般養成施設等で1年以上学んだ後に受験資格を得られます。
精神保健福祉士国家試験が実施されるのは年に1回です。試験は厚生労働大臣から指定された「公益財団法人社会福祉振興・試験センター」によって行われています。精神保健福祉士を名乗るためには精神保健福祉士国家試験に合格するのが前提ですが、それだけでは精神保健福祉士とはいえません。試験に合格後、登録をする必要があります。登録の際も「公益財団法人社会福祉振興・試験センター」で行われます。精神保健福祉士国家試験に合格できたら、まず必要書類を「公益財団法人社会福祉振興・試験センター」に簡易書留で提出しましょう。審査に通って受理されれば、後日登録証が送られてきます。
登録申請から登録証が届くまでの期間はおよそ1カ月ですが、書類に不備が見られる場合にはそれ以上かかる場合もあるので注意が必要です。また、法令の規定にある登録欠格事由に該当していることがあれば登録が見送られることもあります。登録申請に必要な書類は、登録申請書に登録免許税収入印紙の原本、貼付用紙、登録手数料の振替払込受付証明書の原本などの他、戸籍謄本などが必要です。登録申請書や貼付用紙などの記入例は「公益財団法人社会福祉振興・試験センター」のWebサイトから見ることができます。注意点や書類の詳細についても「公益財団法人社会福祉振興・試験センター」のWebサイトで確認しておいた方がいいでしょう。
給与相場
精神保健福祉士の給与相場として年収は404万円です。月給は各種手当込みで約28万円、賞与・ボーナスは70万円程度となります。初任給の参考として、令和4年賃金構造統計調査を見ると、精神保健福祉士を含む「その他の社会福祉専門職業従事者」の初年度の年収は、約23万3,200円でした。
| 精神保健福祉士の給料相場 | |
|---|---|
| 平均年収 | 約400万円 |
| 月給 | 約28万円 |
| 賞与 | 約70万円 |
| 初任給 | 23万円程度 |
| 時給 | 1,395円 |
精神保健福祉士の将来性・需要
精神保健福祉士の登録者数は、2019年3月末時点で8万5122人です。精神的な問題を持つ方が社会復帰を図るために重要なサポートを担う者として、精神保健福祉士は今後もますます注目される資格といえるでしょう。


