ロジハラとは?
近年注目されるようになったハラスメントの一つに、「ロジハラ」があります。ロジカルハラスメントの略であるロジハラですが、どのような行為を指すのでしょうか。まずは、ロジハラの定義や注目されるようになった背景、正論や指導との違いを掘り下げます。
ロジカルハラスメントの定義
ロジカルハラスメント、通称ロジハラは、正論や理屈を振りかざすことで相手を執拗に追い詰め、不快感や嫌悪感を与えたり、自信を奪ったりする行為を指します。ロジカルという言葉が表すように、言っている内容は論理的で筋が通っているとしても、相手の立場や感情を考えずに一方的に正論を押し付ける行為がロジハラであり、正論であるがゆえに「ハラスメントをしている/受けている」という自覚を持ちづらいという特徴があります。
ロジハラが注目されるようになった背景
ロジハラが注目されるようになった背景にはさまざまな要因がありますが、その一つが多様性の推進です。ビジネス領域においては、年齢や性別、キャリア、学歴などが異なるさまざまな人材の登用が推進されていますが、それにより組織に根付いていた風土や文化などが変化し、「はっきりと言葉に出して伝える」ことが必要になる場面も増えてきました。その結果、伝え方や受け取り方によってロジハラになってしまう場面が増えているという背景があります。
また、コロナ禍を機にリモートワークなどが増えたことで、テキストメッセージでのやり取りが増加していることも、ロジハラが注目されるようになった原因の一つです。
面と向かってのやり取りであれば、表情や声色といった態度で感情などを読み取ることができますが、テキストメッセージではそういった非言語的コミュニケーションは得られません。言葉からしか情報を得られないことが、受け手側が相手に対し「冷たい」「怒っている」といったマイナスの印象を持つ場面が増えた原因です。
正論や指導との違い
ロジハラは、言っている内容に筋が通っていることから、ロジハラをしてしまっている本人も、ロジハラを受けている本人も、自覚を持ちづらいことが特徴です。では、正論や業務上必要な指導とロジハラは何が異なるのでしょうか。それは、相手の立場や感情に配慮できているかどうかという点です。ビジネスにおいては、相手の成長や今後の成功を目的に、相手の気持ちに配慮しながら正論を伝えるのは指導の範囲になりますが、相手を否定し精神的に追い詰めるほどの正論は、指導ではなくロジハラとなります。「同じことを何度も繰り返し伝える」「自分が正しいと信じ、相手の意見を聞かない」「自尊心を傷つける言葉を使う」といった指導をしている場合は、ロジハラになると考えておきましょう。
職場で起こりやすいロジハラ事例
ロジハラには、起こりやすいシチュエーションがあります。
「ミス発生時」「部下への指導時」「ミーティング時」「取引先とのやり取り時」の4つの起こりやすいシチュエーションごとに、ロジハラの事例を解説します。
ミス発生時
ミスやトラブルが発生したタイミングは、ロジハラが特に起こりやすい場面です。「ミスの原因となった言動を執拗に責める」「人格を否定するような言葉を使う」「相手の意見を聞かない」といった行為は、本人は状況確認や指導をしているつもりでも、受け手側からはそう捉えられていない可能性があります。
部下への指導時
ロジハラは、「上司から部下」のような立場の違う相手に対して起こりやすいという特徴があります。自分より目上の人や上司に対してコミュニケーションをとるときと比べ、自分よりも役職が下の相手に対して指導やフィードバックを行う際は、言葉や表情に優位性を示してしまうことが多く、それがロジハラにつながる可能性があります。また、このように立場を利用して相手を精神的に追い詰める行為は、パワハラにもあたる可能性があります。
ミーティング時
意見の対立が起こりやすいミーティング時も、ロジハラが発生しやすい場面です。「自分の意見ばかりを主張する」「ほかの人の意見を聞かない」「ほかの人の意見を真っ向から否定する」といった態度は、ロジハラとなる可能性があるので注意しましょう。
取引先とのやり取り時
ビジネスにおけるロジハラは、社内だけでなく、社外の相手に対しても起こり得ます。なかでも起こりやすいのが、取引先や下請け企業とのやり取りにおいてです。納期やコスト、品質に対しての要望が相手先の状況や意見を無視したものになっていないか、トラブルが発生した際に必要以上に責め立てるようなことをしていないか注意し、誠実に対応する必要があります。
ロジハラを起こしやすい人の特徴
ロジハラを起こしやすい人には、いくつかの特徴があります。どのような人がロジハラをしてしまいがちなのかを解説します。
優位に立ちたい気持ちが強い人
プライドが高く、人よりも優位に立ちたいと考えている人は、ロジハラをしてしまいやすい傾向にあります。正論を振りかざし相手を説き伏せることで優越感を得ようとするのが、ロジハラが起こる原因です。また、コンプレックスがある方や自分に自信がない方も、論理的に相手を言い含めることで、自尊心を満たそうとし、結果的にロジハラをしてしまうことがあります。
自分が正しいと信じている人
自分の意見に確固たる自信を持っている人は、相手に自分の意見を押し付けたり、自分とは違う意見を「間違っている」とみなしたりすることで、ロジハラをしてしまいがちです。このような方の場合は、自分の意見を伝えることよりも、自分の正しさを証明することや、相手を論破することが目的になってしまう傾向にあります。
想像力や共感力に欠ける人
相手の状況や感情を考えられない人や、自分の言動が相手にどう伝わるのかを想像できない人は、ロジハラをしてしまいやすい人です。また「正論なんだから、伝えることには何の問題もない」と考え、その伝え方や伝えるタイミングを考慮しない人も、相手の気持ちに対する創造力や共感力が欠けており、ロジハラを起こしやすい傾向にあります。
曖昧なことが嫌いな人
曖昧なことが嫌いな人は、物事をはっきりさせたいという気持ちが強く、またしっかりと自分の意見を伝えることが正しいと感じている傾向にあるため、ロジハラを起こしやすい傾向にあります。このタイプの人は、悪気なくロジハラをしてしまっているのが特徴です。
ロジハラへの対処法
ロジハラは無意識で行っている場合も多く、被害者側に「ロジハラを受けている」という自覚がないことも少なくありません。だからこそ「ロジハラをしてしまっているかも」「ロジハラを受けているかも」と思った段階で対処しておくことが、ロジハラによる被害を大きくしないために大切です。ロジハラをする側、受ける側、そして組織がそれぞれできるロジハラへの対処法を解説します。
ロジハラを起こさないために気を付けること
ロジハラをしてしまわないためにまず大切なのは、相手の感情や立場を想像し、それに配慮した言動を心がけることです。ロジハラは「正論を伝えること」を意味するのではなく、相手の感情や立場を無視し、正論によって相手を追い詰めることを意味します。相手を委縮させたり、威圧感を与えたり、自尊心を削るような伝え方になっていないかを考えながら、言葉を発するようにしましょう。
また、相手の話を聞くこと、意見の違いを受け入れることも、ロジハラを起こさないためには大切です。ロジハラを起こしやすい人は、相手の話を聞かずに一方的に意見を押し付けたり、自分とは意見の違う人は間違っていると考えがちです。状況によって正解は変わること、正解が複数ある場合もあることも頭に入れ、柔軟に物事を受け止める癖をつけるといいでしょう。
ロジハラを受けている場合にすべきこと
ロジハラを受けている方や「ロジハラされているかも」と感じた場合は、ロジハラをする人と距離を置くようにしましょう。業務上必要最低限のやり取りにとどめたり、第三者を交えて会話をしたりするなど、ロジハラ行為から意識的に離れるようにしてください。
ただ、職場環境によっては、距離をとることが難しい場合も多いかと思います。そのような場合は、相手に一度、気のすむまで話をさせるのも一つの手です。ロジハラを受けている側のストレスがそこまで大きくない場合に限られますが、最後まで話をさせることで、相手の気が済む可能性があります。
もし、前述した2つの方法のどちらも難しい場合には、上司や人事担当者へ相談しましょう。ハラスメント相談窓口を設置している職場であれば、そういった仕組みの利用も検討してみてください。また、社内での相談が難しい場合には、外部の相談機関や弁護士などへの相談も検討しましょう。
ロジハラを未然に防ぐために組織がとるべき対策
ロジハラを未然に防ぐためには、組織単位での対策も必要です。まずは、ロジハラを含めたハラスメントに対する方針を明確にし、それを全従業員に周知するようにしましょう。組織としての方針や対策について明確にすることで、ロジハラの防止につながるのはもちろん、ロジハラを受けた人が相談しやすい環境を作ることができます。
また、ハラスメント研修を行うことも大切です。ロジハラは、指導や教育の範疇なのかそうでないのかが当事者には判別しづらいハラスメントですので、具体例も交えてロジハラの定義や対策についてわかりやすく伝えることで、自覚のないロジハラの発生を防ぎやすくなります。
そして、定期的にロジハラが起こっていないかを調査することも必要です。完全匿名で答えられる形式や、「〇×」のみで答えられるような形式にすることで、ロジハラを受けている人も答えやすいように工夫しましょう。また、ハラスメントに対する社内の相談窓口の設置とその周知もしておく必要もあります。何かあった際に相談できる場所があるということが、従業員の安心感につながります。
まとめ
ロジハラは、正論を武器に相手を精神的に追い詰めるハラスメントです。ハラスメントをしている側にも受けている側にも自覚がない場合がありますが、精神的なストレスがたまることで心身に不調をきたしたり、チームの雰囲気が悪くなったり、生産性の低下や従業員の休職・退職につながることもあります。気づいたらロジハラの加害者になっていたということがないように、日ごろから相手の心情に配慮したコミュニケーションを心がけましょう。また、組織はロジハラを未然に防げるよう、従業員の理解を促すとともに、ハラスメント研修の実施や相談窓口の設置といった必要な対策を行いましょう。
FAQ
Q. ロジハラとパワハラの違いは何ですか?
ロジハラは、論理的な正論を用いて相手を精神的に追い詰める行為を指します。一方でパワハラは、立場の優位性を利用して継続的に相手に対して精神的または身体的な苦痛を与える行為です。ロジハラはその内容が論理的であるがゆえに、パワハラに比べて気づかれにくいという特徴があります。
Q. ロジハラは法的に訴えられますか?
現時点では「ロジハラ」というハラスメント単体での明確な法的定義はありませんが、内容や頻度によってはパワハラや精神的苦痛として労働法や民法上の損害賠償請求の対象になる可能性があります。社内の相談窓口や弁護士に相談することをおすすめします。
Q. 正論を言うことがすべてロジハラになりますか?
いいえ、正論自体が問題なのではなく、その伝え方や相手への配慮がないことがロジハラにつながります。相手の感情や状況を無視し、一方的に正論を押し付けるようなコミュニケーションはロジハラとみなされる可能性があります。
Q. ロジハラを受けたと感じた場合、まず何をすればよいですか?
まずは信頼できる上司や人事担当者に相談しましょう。相談しづらい場合は、社外の相談窓口や労働基準監督署、弁護士などに連絡するのも一つの方法です。記録(日時、内容、状況)を残しておくことも大切です。
Q. ロジハラを予防する職場環境づくりには何が有効ですか?
ハラスメントに対する社内ポリシーの明確化と周知、定期的なハラスメント研修の実施、匿名で相談できる窓口の設置が効果的です。職場全体で相互尊重の意識を高め、コミュニケーションの質を向上させることが重要です。
