医師の働き方改革をわかりやすく解説！背景と現状
2024年4月に開始された医師の働き方改革は、医師の健康を守り、医療の質と安全を守るための取り組みです。
取り組みの概要とその背景について解説します。
医師の働き方改革の目的と背景
医師の働き方改革とは、
「医療の質・安全の確保」と「持続可能な医療提供体制の維持」を目的に、医師が健康的に働き続けられる環境を整備するための取り組みです。
労働人口の減少や医療ニーズの変化、少子高齢化といった社会の変化によって医師個人への負担の増加が予想される中、2024年4月に施行されました。
医師の長時間労働の実態と背景について
医師の働き方改革が施行された背景には、医師の長時間労働という問題があります。
2019年に厚労省が行った調査では、医療機関で働く医師の約40%が月80時間以上の残業（時間外・休日労働）を行っているとの結果が出ており、医師の約1割は、その倍である160時間に相当する残業を行っていることがわかっています。
このような長時間労働が一般的となっている背景には、医師不足や医師への業務集中、医療ニーズの変化などがあり、少子高齢化が進む現代においてこの問題はさらに深刻になることが予想されます。
💡 医師の働き方改革の要点・労務管理の徹底、労働時間の短縮により医師の健康を確保する
・全ての医療専門職それぞれが、自らの能力を活かし、より能動的に対応できるようにする
これらにより、質・安全が確保された医療を持続可能な形で患者に提供することを目的にしています。
厚生労働省が進める医師の働き方改革：2024年4月の改正点
では、医師の働き方改革によって、どのような点に変化があるのでしょうか。
改正における主なポイントを解説します。
2024年施行の主なポイント
上限規制の設定
医師の働き方改革により、医師の時間外労働に上限規制が設けられました。
- 原則として「年960時間」「月100時間未満」が時間外・休日労働時間の上限
- 救急医療や臨床研修を行う特定の医療機関では「年1,860時間」までが上限
この上限を超えて労働した場合には、労働基準法に基づいて「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が課されるという点も今回の改正のポイントです。
また、長時間勤務を行う中でも医師の健康が守られるよう、
- 面接指導
- 適切な休息の確保
に関するルールも設けられています。
「面接指導」とは
時間外・休日労働が月100時間以上となることが見込まれる医師に対して面接により心身の状態を把握し、その内容に応じて本人への指導や必要な措置を講じることです。
時間外労働時間の上限が「年960時間」か「年1,860時間」に関係なく、月100時間以上の時間外労働が見込まれる医師であれば対象となります。
「適切な休息の確保」とは
始業から 24 時間以内に9時間の継続した休息時間（15 時間の連続勤務時間制限）をとること、始業から 46 時間以内に18時間の継続した休息時間（28 時間の連続勤務時間制限）をとることが基本ルールとして定められました。
休息中に緊急の業務が発生した場合はその業務にあたることは可能ですが、その場合は翌月末までに代償休息をとる必要があります。
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医師の働き方改革制度の対象者
2024年から始まった医師の働き方改革制度の対象者は、病院、診療所、介護老人保健施設又は介護医療院に勤務する「医業に従事する医師」です。
産業医、検診センターの医師、裁量労働制（大学における教授研究等）が適用される医師等や、医師以外の医療従事者については、一般の業種の労働者として、時間外・休日労働の上限規制が適用されています。
医師の働き方改革の推進に向けた具体的な取り組み
医師の働き方改革を推進するための具体的な取り組みとしては、タスクシフト・シェアや業務の見直しなどがあります。主な取り組み内容を解説します。
医師のタスクシフト・シェア
タスクシフト・シェアとは、医師とほかの医療職種間とで業務の移管や分担を行うことです。
書類作成や検査方法の説明、薬剤投与や採血などの特定の医療行為、薬物療法の説明といった医師以外にも対応が可能な業務を、事務職員や看護師、薬剤師などが行うことで、医師への業務集中を分散し、医師の負担軽減を図る目的があります。
医師の業務の見直し
複数主治医制、病状説明の勤務時間内実施と患者さんや家族への周知などを行い、医師の業務の見直しを図ることも、医師の働き方改革の具体的な取り組みです。
一人の患者さんに対して複数の主治医が対応する場合があること、勤務時間外に病状説明等を求められた際にお断りすることがある場合があることなどを、患者さんやそのご家族に周知し、働き方改革への理解を促すことは医師の長時間労働を減らすうえでの取り組みの一つとなっています。
その他の勤務環境の改善
ICT技術の活用や、短時間勤務による子育て世代の医師が働きやすい環境の整備も、医師の長時間労働を改善するうえで見逃すことのできないポイントです。
出産、育児、介護などによってキャリアプランが妨げられないよう、女性医師に対する柔軟な働き方の提供も重視されています。
地域の病院間での役割分担
地域の病院間での役割分担が適切に行われることも、医師の働き方改革につながります。
具体的には、救急対応に輪番制を導入する、地域の方々に各種医療機関の役割を理解してもらうことで適切な医療機関での受診を促す、かかりつけ医を持ってもらうことで気になる症状がある際の一時対応をクリニックが担えるようにする、といった取り組みが必要です。
医師の働き方改革による課題と問題点とは
医師の働き方改革の推進には、課題や問題点もあります。医師の長時間労働の解消を目指すうえでハードルやリスクになり得る点を解説します。
地域医療における医師不足と現場の負担増加
医師の長時間労働の一因でもある医師不足は、日本社会の長年の課題です。
このような状況の中、医師の働き方改革によって時間外労働に上限規制が設けられると、人手不足にさらに拍車がかかることが懸念されています。また、時間外労働の上限規制とタスクシフト・シェアにより、現場の負担増加も危惧されています。
医師の勤務体系の複雑さ
副業や兼業が一般的であり、日勤や夜勤、宿直といったさまざまな働き方があるため、医師の勤務実態の把握は容易ではありません。医師の長時間労働を抑えるために細かく勤務実態を把握しようとすると、労務管理の手間が増えることが予想されます。それによる労務管理担当者の負担増加やコスト増加が懸念されています。
医療連携の減退化
医師の長時間労働を解消するために、地域医療機関への医師の派遣を取りやめる医療機関が増えると考えられています。医療連携が減れば、現場の医師の負担増加や患者さんの待ち時間の増加、紹介や救急搬送時が円滑に進まなくなるといったさまざまな問題が生じることが予想されます。
医療業界の発展における不安
時間外労働の上限規制によって診療に専念せざるを得なくなると、その分研究や教育にかけられる時間が少なくなり、医療業界の発展が妨げられるのではないかと懸念されています。また、研修参加や論文執筆にかける時間が少なくなることで、医師のキャリア形成にも影響が出るのではと考えられています。
医師の働き方改革における課題を解消するためのポイント
医師の働き方改革を成功に導くためには、さまざまな課題に目を向けながら、状況に応じた対策をとることが必要です。課題を解消するために考慮しなければならない点を解説します。
医師・看護師の人手不足の改善
医師の長時間労働を解消するうえで大切なことは、医師や看護師といった医療職種の人手不足を解消することです。大学医学部の定員数や臨床研修医の採用上限数の見直し、看護師への復職支援や定着支援などによってそもそもの人手不足を解消しなければ、医師の働き方改革は現場の負担を増加させる結果になりかねません。
労務管理システムの導入・担当者の増員
医療職種の勤務体系は複雑なため、勤務実態を細かく把握し長時間労働を避けるためには労務管理の方法を変える必要が出てきます。労務管理システムを導入したり、労務管理担当者を増員したりすることで、現場の負担を抑えながら管理できる環境を整えることが大切です。
AI・IT技術の活用
医師・看護師の人手不足を解消するためにも、医師の長時間労働を解消するためにも、AIやIT技術の活用は欠かせません。AIによる画像診断やロボットによる手術支援、オンライン診療システムなどを活用することで、業務の効率化や質の向上、地域格差の是正が見込めます。
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医師の働き方改革におけるQ&A
医師の働き方改革におけるよくある疑問に回答します。
Q.アルバイトをしている医師の勤務時間はどのように変化しますか？
常勤している医療機関のほかにアルバイトをしている場合、常勤している医療機関とアルバイト先の合計労働時間が上限規制内に収まっている必要があります。
Q.複数の医療機関に勤務する医師はどのように労働時間を把握すればいいですか？
複数の医療機関に勤務している場合、それらの合計労働時間を管理する必要があります。医師本人による自己申告のほか、副業・兼業先の勤務予定や労働時間を把握するための仕組み作りが必要となります。
Q.医師の働き方改革によって収入は変化しますか？
時間外労働の上限規制によって、アルバイト先での勤務回数や勤務時間、常勤先での休日出勤日数等を調整する必要が出てきた場合、収入が減少する可能性があります。
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